大谷 環 エッセイ
「Allegro Moderato」
アレグロ・モデラート。楽譜の最初にひっついている、俗にいう速度記号といわれるものだ。これがどうも僕はいつもひっかかるのだ。何がひっかかるかというとその日本語訳である。
今てもとにある、現在使われている中学の教科書を見ると、Allegroは「速く」。Moderatoは「中ぐらいの速さで」、となっている。ということはタイトルにあるこの『速度記号』は「速く、中ぐらいの速さで」??? 演奏しろということになる。これじゃ、日本語になっていないじゃないか!! ちなみに30数年前に僕自身が使った高校の教科書を調べてみたら、同じ訳がのっていた。つまりこの訳には(少なくとも)30年間クレームが付かなかったということだ。やれやれ。
それはともかく、せっかくの音楽の内容を誤解しかねないこの迷訳は何とかしたいのだ。どうするか。面倒でも辞書をひくことである。間違っても音楽辞典をひいてはいけない。また迷訳が出てくるからだ。
だいたいこれらの「速度記号」(じゃないんだが)はイタリア語で書かれている場合が多いので、イタリア語辞書をひいてみよう。Allegroは「愉快な」と、しょっぱなにある。いいねえ!「陽気な」「はつらつとした」。ますますよろしい。で、Moderatoのほうをひいてみると、「節制のある」とか「適度の」とある。大分日本語らしくなってきたんじゃない?
これらを適当にくみあわせると(パズルみたいですね) Allegro Moderato から「陽気に、でもはしゃぎすぎないで」ぐらいの訳がでてくるんじゃないだろうか? これだと、曲の雰囲気が判る。どうですか、納得がいってきたでしょう。
ではためしにフォーレのパバーヌに付いている「キャラクタ記号」(と僕は言いたい)Andante molto moderatoを今までの訳と、新しいアプローチの訳でくらべて下さい。ヒント。Andanteの訳語は、「飾らない」「単純な」「気取らない」etc.
