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大谷 環 エッセイ
​「あるものでやる」


「あるものでやる」というのが僕の基本的なスタンスである。なんに対してと問われると「まあなんでも」というのが答えになりそうだ。

 

演奏の時なんかはいつもこれ。そのときどきのコンディションで間に合わせる。よくあることなんだけど、だいたい「健康でないと演奏はできない」などという前提が強固にあったりすると、ちょっとでも体調不全だととたんにそれに引きずられて演奏に集中するどころではなくなってしまう。いくら気をつけていたって風邪ぐらいはひくし、万全の注意をしていたつもりでいても運が悪ければ、癌にだってかかるものなのだ。パーフェクトな体調なんてめったにあるものではない(完全な体調なんてのはただの神話だと思っていればいい)。

 

また勉強(準備)が十分でなければできないなんて自分に言い聞かせてしまったら、演奏なんて一生涯できないだろう。だから「あるものでやる」のだ。どんなコンディションのもとだって「それなり」には対処できるものなのだ。

 

ひとつ条件をつければそれをクリアするために一仕事ふえるのは確実なのだ。演奏という集中を要求されるときに仕事を増やすべきではないのはいうまでもない。「あるものでやる」というのは「こだわり」のすくない態度なのである。

 

どうしたって自分の気に入らない音のひとつや二つは一曲のなかにはでてくるだろうし、何となく乗りのわるい演奏になることもあるだろう。けれど、それにこだわる時間が少なくなるのだ。その分、早い対処が可能になる。つねにフレッシュに音楽と接していられるということだ。

 

おなじスタンスは毎日の練習に応用もできる。いまできることがちゃんと選択できるようになるから無駄がぐっと減る。「あるものでやる」は「今晩のおかず」から「人間関係」まで幅広く応用できるたのしいキーワードなのだ。​

 

 

 

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