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大谷 環 エッセイ
​「不随意筋」


​筋肉にはふた通りのタイプがある。一つは随意筋、もう一つは不随意筋だ。
 

非常におおざっぱな解説をすると随意筋は脳の命令で動かせる筋肉。たとえば腕とか脚の筋肉などをいい、不随意筋というのは動かそうと思っても簡単にはコントロールできないもの、たとえば心筋とか腸とかを作っている筋肉、そして全身のバランスをとっている筋肉(これが今回のテーマ)などを主にいう。


ギターを弾いている時ふつう気にしているのは「随意筋」の動きだ。どうやって左手を弦に触れるか?右の指のタッチはどうすればスムーズにいくか、なんて考えて弾いてる時は「随意筋」に注目しているのだ。これは分かりやすい。
 

ところがその細かい指や腕の自由な動きを支えているのはじつは不随意筋なのだ。われわれはギターを弾くという行為のまえに、上半身を直立させ椅子にすわっている。そのことは無自覚(自動的に)でもおこなわれるものだから、なかなか考えづらい。


日本の武道とか芸事(書道、茶道など)も基本フォームが正座であるのは、こうした事実を経験的に知っていたからである。あぐらをかいている状態では背中のテンションがすでに高くなり過ぎて腕や手の「優雅」で「スピーディ」で「力強い」動きをサポートする前に脊椎が自分自身を支えるだけで手一杯になってしまうのだ。で、正座を選んだ。


チェロのシュタルケルは彼のマスタークラスで一時間びっちり「座る」レッスンだけやって終わったことがあったという話を昔聞いた。
姿勢(他にいい言い方はないものだろうかといつも思う)なんていうと「形」(動かないもの)というふうにイメージしてしまうが、「バランス」と考えると、もっといきいきとしたとらえ方ができる。そうしたときにはじめて本当の意味の動きの要である「不随意筋」がちゃんと仕事をしてくれるのだ。

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